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今年の祭りは半纏に注目だ! 浅草の染物専門店「染の安坊」に訊くこだわりと魅力

今年の祭りは半纏に注目だ! 浅草の染物専門店「染の安坊」に訊くこだわりと魅力

台東区は「祭りの街」といっても過言ではないほど、歴史と伝統のある行事が多い地域。そんな祭りで注目したいもののひとつが、神輿の担ぎ手などが着ている半纏だ。祭りの衣装としてのイメージが強いが、その種類や地域による違い、時代の変化について知れば、祭りをさらに深く楽しめるはず。本記事では、浅草にある染物の専門店でありオーダーメイドの半纏を製作している「染の安坊」にお邪魔してお話を伺った。

台東区の初夏は有名な祭りが盛りだくさん

  • 三社祭の神輿渡御の様子(写真提供=台東区)
    三社祭の神輿渡御の様子(写真提供=台東区)
伝統的な行事やイベントが数多くあるが、なかでもよく知られているのが下谷神社大祭や三社祭、鳥越祭など神社の例大祭だろう。

これらで行われる神輿の渡御のほかずらりと並ぶ露店など、数々ある祭りの風物詩のひとつに半纏がある。大勢が参加する祭りでは、さまざまな色や柄の半纏を見かけるはずだ。実はそこに細かな違いやルールがあることなどはご存じだろうか。

そもそも半纏とは? どんな種類がある?

江戸時代、武士が着用する羽織であった法被に対して、庶民向けに作られたといわれているのが半纏だ。祭りの衣装としてのイメージが強いが、用途によっていくつもの種類があり、形も少しずつ違いがある。浅草「染の安坊」で製作するのは、仕事半纏、印半纏、祭り半纏が多いという。

植木屋や大工など職人が作業着として着る仕事半纏は、動きやすさが重要。丈は短く、袖は細めになっていたり、摩擦に強い丈夫な生地が使われたりするのが一般的だ。また、背や襟に会社や屋号、家紋を入れることも多く、そのようなおそろいのデザインのものは印半纏と呼ばれる。祭りで神輿の担ぎ手が着ているものが祭り半纏で、こちらも各町会や神輿会など団体ごとのデザインがある印半纏であるものがほとんどだ。

「染の安坊」が請け負う半纏の製作とこだわり

  • オーダーメイド専門の「染の安坊 染物お誂え 浅草別館」
    オーダーメイド専門の「染の安坊 染物お誂え 浅草別館」
そんな半纏は、どのようにつくられているのだろうか?
祭り半纏は、祭り用品店や呉服屋さんなどが元請けとなって工場に発注しているケースが多いが、「染の安坊」は自社工場としての染め場を持ち、形やデザインなどの提案もできるのが特徴だ。

「半纏は用途のほかにも役職などによって細かな違いが色々とあるのですが、ルールとして明文化されていないことが多いんです。『染の安坊』ではそういった違いを把握し提案できるので、こだわってつくりたいという方に依頼していただけることが多いですね」とは、受注を担当する三浦英剛さん。
  • 店内には、手ぬぐいや半纏など数々の染め物の商品が
    店内には、手ぬぐいや半纏など数々の染め物の商品が
希望や用途だけでなく、中に着る衣装に合わせた提案もするという。腹掛けに股引(ももひき)といった昔ながらのスタイルなのか、ひざ上までの丈の股引である半股引(はんだこ)なのかで、身丈や身幅の寸法も変わるのだとか。

また、サイズも含めた100%オーダー品のため、いわゆるS・M・Lのようなサイズはなく、あらゆる寸法をミリ単位で調整。デザインも、紋の配置や文字のアレンジなど、並んだときに違和感がないようにこちらもミリ単位で調節する。
  • 「染の安坊」がコラボで製作した注染の手ぬぐい
    「染の安坊」がコラボで製作した注染の手ぬぐい
そして「染の安坊」が誇る特徴は、なんといっても職人による丁寧な本染め。いわゆる本染めと呼ばれる染め方にもいくつか種類があるが、祭り手ぬぐいは迷わず注染だという。

注染はその名の通り重ねた生地に染料を注いで染め上げる伝統的な方法で、技術がものを言う。裏表どちらもきれいに染まり、色の境目が優しくなるのも特徴だ。

地域ごとの違いや時代による変化も

祭り半纏の色は藍染めの紺色をベースにしたものが多く、その次に茶色が人気だというが、団体のカラーを取り入れるなど多種多様だ。柄にも細かなルールがあり、柄は若い人の方が多く、役職が上がれば上がるほど柄が減って無地に近くなっていくという伝統的な団体もある。また、海に近い土地では白半纏が多いといった地域性もある。
  • 背縫いの部分
    背縫いの部分
形やサイズは時代によっての変化も大きく、昔は身丈の短いものが多かったそう。その最も大きな要因は体型の違いだ。「40〜50年前のものを持ってきていただいて型起こしし直すこともあるのですが、かなり小さいので驚きます」と三浦さん。

また、かつては反物の一幅で作られた半纏こそが粋だった。その証に、後ろ身頃の左右を縫い合わせた部分である背縫いが入っていることや、袖が生地耳(生地の両端にある縫製されていない部分)で終わっているものがよしとされたのだ。現代の日本人の体型だと足りなくなってしまうため、一般的な幅である小幅ではなく広幅の反物を使うことも多いという。
  • 生地耳で終わっている袖
    生地耳で終わっている袖
さらに最近は、祭りを支える鳶頭(かしら)が着ているような身幅が細く丈の長い半纏が流行り。衣装として着用する半纏も、やはり同様のものが人気なのだとか。

芸能人やインフルエンサーがファッションアイコンとして憧れを集めることと共通するものを感じられる。

今年のお祭りは半纏に注目すべし!

シーンや用途に合わせて進化してきた、アレンジのきく万能な着物でもある半纏。祭りでは、その一部ではあるものの多種多様な半纏を目にすることができる。

三社祭でいえば、浅草神社の関係者だけでも相当な種類があり、さらに四十四ヶ町の町会や神輿の会それぞれの半纏があり、そのうえ店や会社の半纏もあって……と考えると、さながら半纏のファッションショーだ。

祭りに足を運んだら、さまざまな半纏の形、色、柄に注目してみよう。そして、半纏がたどってきた歴史や、作り手の技術とこだわりに思いをはせてみよう。祭りの景色がもっと奥深く、興味深く感じられるはずだ。

「染の安坊」の基本情報

雷門からも歩いてすぐの場所に店を構える「染の安坊」には本館と別館があり、別館が誂え専門。半纏のほか、手ぬぐいや暖簾などのオーダーメイド受注を受けて製作している。

また、本館では職人がつくる本染めの手ぬぐいをメインに販売しており、三社祭の時期にはオリジナル柄も販売。浅草みやげにぴったりだ。
コラム
「染物お誂え 浅草別館」

住所:台東区浅草1-21-2
アクセス:浅草駅から徒歩3分
TEL: 03-5806-4445
営業時間:10:30〜19:00
定休日:水曜・土曜・不定休あり
コラム
「染の安坊 浅草本店」

住所:台東区浅草1-21-12
アクセス:浅草駅から徒歩3分
TEL: 03-5806-4446
営業時間:10:30〜19:00
定休日:なし・不定休あり
※本記事は2025年2月時点の情報です。最新の情報は公式サイトをご確認ください。
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コラム
ライター/中村こより

1993年東京生まれ、北海道育ち。坂のある街に憧れて2020年から谷中在住。
街を歩いたりお店の話を聞いたりする記事をよく書いています。
好きなものは凸凹地形、地図、路上観察、夕立。

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