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根岸の「子規庵」が心に染みるワケ 気分はまるで明治にタイムスリップ?!

根岸の「子規庵」が心に染みるワケ 気分はまるで明治にタイムスリップ?!

明治を代表する俳人・歌人である正岡子規が、亡くなるまでの約8年半を過ごした「子規庵」をご紹介します。「ここは訪れた人の心が元気になる場所なんです」と語るのは、子規庵保存会の理事長を務める齊藤直子さんです。ドラマや教科書では見えなかった、正岡子規のリアルな横顔に迫ります。

『吾輩は猫である』が読まれた伝説の八畳間

鶯谷駅北口から歩いて約5分。その一角に、まるで明治に戻ったかのようなレトロな雰囲気で佇む一軒の小さな平屋があります。
ここが明治27年から、亡くなる明治35年までの8年半を過ごした正岡子規の旧居・子規庵です。

  • 子規庵保存会理事長 齊藤直子さん
    子規庵保存会理事長 齊藤直子さん

今回、この子規庵を案内してくださるのは子規庵保存会の理事長を務める齊藤直子さん。

  • 伝説の八畳間
    伝説の八畳間

入ってすぐのこの八畳間。実はこの場所こそが、夏目漱石が『吾輩は猫である』の原稿を子規の門人・寒川鼠骨(さむかわそこつ)に読んでもらったという伝説の場所。

  • 齊藤直子さん
    齊藤直子さん
    亡くなる2日前まで子規さんは新聞に連載する随筆を書いていたんです。当時は、今みたいにテレビもSNSもない時代。俳人としてはもちろん、新聞記者としても活動していた子規のもとには、漱石だけでなく高浜虚子や伊藤左千夫ら多くの門人や友人たちが集まりました。自宅であり、文化サロンのような場所だったんですね。おもしろい話や最先端の情報が、いつもこの部屋に飛び交っていたんでしょうね。

人に愛され、人を愛した子規の書斎

  • 子規の書斎の座机(明治32年に子規が根岸の指物師に作らせた机の複製)
    子規の書斎の座机(明治32年に子規が根岸の指物師に作らせた机の複製)

子規庵にきたらぜひ見てほしいと齊藤さんがいう書斎の座机。
当時、子規の左足は曲がったまま伸びなくなってしまっていたので、立膝をいれる部分が切りぬかれているのが特徴です。

今はここで来庵者が名前を記帳することができるんです。
子規と同じ場所に座り、机に向かい、筆を持つ…。なんかもうこれだけで、ときめきがあふれてきますよね!

豊田佐吉やキュリー夫人と同い年!正岡子規はこんな人

  • パネル展示「慶應三年異能ボーイズ」
    パネル展示「慶應三年異能ボーイズ」

玄関を上がって右の三畳にあるパネル展示「慶應三年異能ボーイズ」も興味深いですよ。

この展示を見ると、正岡子規の生まれた年は偉人だらけであることに驚かされます。
大学予備門以来の友人である夏目漱石が同い年だったことは数々の小説やドラマを通してよく知られていますが、実はあのトヨタグループの創始者・豊田佐吉や物理学・化学の世界的な学者であるキュリー夫人、大リーガーの投手サイ・ヤングも同じ年の生まれなんです。

子規は34歳で亡くなってしまったのですごく遠い時代の人に感じられましたが、こうして同じ時代を過ごした人たちをみると、その時勢や文化をより深く想像できるのではないでしょうか。

・子規はめちゃくちゃよく食べる人だった
  • 食べもの帖
    食べもの帖

子規が死の前年、明治34年9月、10月、翌年3月の3日間の生活を俳句や水彩画等を交えて赤裸々につづった日記『仰臥漫録(ぎょうがまんろく)』。
ここに記された日々の献立を、子規庵のボランティアスタッフが実際に調理・再現した(←この状況だけで子規がいかに今も愛され続けているか伝わってきますよね!)という『食べもの帖』も必見です。

すごすぎ!と思いながらめくってみると、その食べている量に腰を抜かしそうになりました。

  • 食べもの帖
    食べもの帖

夕飯のおかずに焼鰯18尾とかおやつにスイカ15切れとか…!
思わず「マジで?!」と声が出てしまうレベルです。

  • 齊藤直子さん
    齊藤直子さん
    病人とは思えない量でしょ。間食で菓子パン小十数個なんていう日もあるんですよ。お魚も気に入っていたらしく、お昼には刺身を食べています。マグロやカツオが多い。こういう記述をみながらマグロが好きだったのかなぁとか想像できちゃうのも面白いですよ。病を患いながらも、これだけ食べていたからこそ、34歳まで生きられたんですね。
  • 子規は意外と背が高かった
  • 等身大パネル
    等身大パネル

子規庵には、子規や漱石のイラストによる等身大パネルも。
159㎝の漱石に対し、子規は164㎝ぐらいだったそう。

  • ライター
    へぇ、漱石より子規の方が背が高かったのですね。教科書やドラマでみていた子規はいつも腰かけていたり、上半身だけのアップだったりして、あまり背丈の想像ができなかったのですが、こうしてみると結構大きい!
  • 齊藤直子さん
    齊藤直子さん
    写真はあまり表情がないものが多いけれど、実際はこんな風にいたずらっぽい笑顔でみんなに語り掛けていたんじゃないかしら。
  • 意外とさみしがり屋さん?! 「もう帰るね」って言われるのがイヤ
  • 子規の書斎の座机
    子規の書斎の座机
  • 齊藤直子さん
    齊藤直子さん
    子規さんは来てくれた友人に「もう帰るね」と言われることが何よりイヤだったと伝えられているんですよ。「キミが帰ったら、その座が空いてしまうじゃないか」と名残惜しく引き留めていたんですって。
  • ライター
    このお部屋に集まったご友人やお弟子さんたちの笑い声が今でも聞こえてきそうですね!
  • 齊藤直子さん
    齊藤直子さん
    そうでしょ。ぜんぜん病人の家っていう感じがしない。今でもここに来た人たちが、「元気をもらった」って言ってくださる。だから子規庵を“心が元気になる場所”って話しているんですよ。

絵葉書を手に取り、在りし日の姿に想いを馳せて

  • 絵葉書
    絵葉書

子規庵の一角では、亡くなる約2、3か月前から子規が描いていたという『果物帖』や『草花帖』のイラストの絵葉書が販売されています。

  • 絵葉書(バナナ)
    絵葉書(バナナ)
  • 絵葉書
    絵葉書

俳人や歌人、ジャーナリストというイメージが先行してしまいがちですが、このやさしい筆遣いや配色のセンスを通じて、すごくあたたかみのある人柄、そして強い生命力に触れられるような気がします。

  • きっと子規が見たかったであろう景色

取材した日は、ちょうど「子規庵でお花を活ける」というイベントが開催中でした。
(※2024年11月現在、このイベントは終了しています。)

  • いけばな小原流 一級家元教授 林 有為子先生
    いけばな小原流 一級家元教授 林 有為子先生
  • 林先生
    林先生
    植物を通じて、若さ、枯れかかってゆく姿までを同じ場所に共存させました。
    このなかに過去・現在・未来のすべてを表現しているんです。
  • ライター
    奥にある水色のは富士山ですか?
  • 林先生
    林先生
    そうです。きっと子規が見たかったであろう風景を活けました。
    こうして富士山に雲がかかっているようなイメージです。
  • 齊藤直子さん
    齊藤直子さん
    子規が病床に臥せっていた時、この書斎にお布団を敷いていたんです。
    枕の位置から見える場所にこうして林先生が活けてくださったんですね。素敵でしょ。

人が集まり、光が差し込み続ける「子規庵」

  • 寒川鼠骨翁の句
    寒川鼠骨翁の句

子規の没後、母・八重さんと妹・律さん、子規の門人たちに守られていた子規庵でしたが、昭和20年の戦火で一度は消失してしまいました。
しかし寒川鼠骨等の尽力により、5年後にはほぼ当時のままの姿に再建されたのだそうです。

  • 糸瓜(へちま)
    糸瓜(へちま)
  • 齊藤直子さん
    齊藤直子さん
    お庭の糸瓜棚もサイズがわかっていたから大方同じ大きさで今も作っているんです。
    今年は糸瓜が10月になってから大きく成長しました。
    まだ赤ちゃんの糸瓜もあちこちにあります。
    子規庵に来られたらぜひこの糸瓜棚を見上げてみてほしいです。
  • 芙蓉の花
    芙蓉の花

今回取材に伺ったのは11月上旬でしたが、自然いっぱいのお庭には芙蓉の花も。
ボランティアの皆さんで手入れをしているというお庭を歩いて空を見上げると、もう今が令和の時代であることを忘れてしまいそうな感覚になります。

台東区ってつくづく物語のある町だなぁと改めて感じさせられました。

  • 糸瓜
    糸瓜

観光はもちろん、仕事帰りや気分転換のお散歩シーンなどにも。心に癒しがほしいときこそ、ぜひ足を運んでみてください。

正岡子規のやわらかなパワーと大きな懐に、グッとひきこまれますよ!

コラム
基本情報

子規庵(東京都指定史跡)
所在地/〒110-0003 東京都台東区根岸2丁目5-11
TEL/03-3876-8218
入庵料 500円/税込 中学生以下無料
公開日 水曜・土曜・日曜、祝日 ※夏季、冬季休庵期間などがあります
時間 10:30~12:00(受付は11:40まで) 13:00~16:00(受付は15:40まで)
Instagram @negishi_shikian
X @shikian1
※本記事は2024年11月時点の情報です。最新の情報は公式サイト、公式SNSをご確認ください。
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コラム
ライター/朝岡真梨

世界50か国200都市の海外旅行経験をもとに、グルメや観光スポットを紹介するライター。
公式ブログ「遊んでばかりのスナフキン」が人気。
ハマりやすい性格で「成城石井マニア」「ポチャッコのガチオタ」としても知られる。

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