コルクアートから広がる出会いと好奇心。浅草の奥に潜む『Atelier Cork & Tip』で知ったワインの魅力
台東区橋場にある『Atelier Cork & Tip』は、アートギャラリー兼ワインバー。でも、単なる作品鑑賞の場でもなければ、ありきたりな酒場でもない。ワインを軸に広がるつながりの起点であり、歴史や文化への好奇心をも掻き立ててくれる、可能性渦巻く空間だ。
ワインのコルクでつくったモザイクアート
浅草の喧騒を抜け、隅田川のそばの道を上流に向かって進む。待乳山聖天を過ぎ、今戸神社をも過ぎたさらに奥。かつて隅田川で最も古い渡しがあったとされる橋場に『Atelier Cork & Tip』はある。
店内に足を踏み入れると、突如現れた異世界のような光景に圧倒される。ターコイズブルーの壁、赤いテーブル、木のカウンター、そしてその奥にいくつも並ぶ大きな肖像画。それらは、よくよく見るとワインのコルクでできたモザイクアートなのだ。
店内に足を踏み入れると、突如現れた異世界のような光景に圧倒される。ターコイズブルーの壁、赤いテーブル、木のカウンター、そしてその奥にいくつも並ぶ大きな肖像画。それらは、よくよく見るとワインのコルクでできたモザイクアートなのだ。
「たくさん捨てられるコルクがもったいなくて、これで何かつくれないかなと思って」と話すのは、店主でソムリエの久保友則さん。これらのコルクアートは、すべて久保さんがひとつひとつ作り上げたものだ。
ワインショップやウェイターなどワインに関わる仕事をしてきた久保さんは、2014年ごろからコルクを使った肖像画の制作を開始。思いつきで始めたことだったが、「捨ててしまうはずのものでこんなことができるのか、と喜んでもらえたのが純粋に楽しかった」という。
やがてこのコルクアートが注目され、メディアでも紹介されるようになり、オーダーメイドの依頼まで舞い込むように。それまで自分の店を持ってみたいという淡い思いはあったものの現実的には考えていなかったという久保さんにとって、契機となったのがコロナ禍。ワインとコルクアートの活動に専念してみようと、独立開業に踏み切った。「ワインがおいしいお店はたくさんありますが、コルクアートが展示されているギャラリーはありません。だから、うまく成立するかもしれないと思ったんです」。
そうして、コルクアートのギャラリーでありワインバーでもある『Atelier Cork & Tip』をオープンしたのが2021年7月のことだ。
ワインショップやウェイターなどワインに関わる仕事をしてきた久保さんは、2014年ごろからコルクを使った肖像画の制作を開始。思いつきで始めたことだったが、「捨ててしまうはずのものでこんなことができるのか、と喜んでもらえたのが純粋に楽しかった」という。
やがてこのコルクアートが注目され、メディアでも紹介されるようになり、オーダーメイドの依頼まで舞い込むように。それまで自分の店を持ってみたいという淡い思いはあったものの現実的には考えていなかったという久保さんにとって、契機となったのがコロナ禍。ワインとコルクアートの活動に専念してみようと、独立開業に踏み切った。「ワインがおいしいお店はたくさんありますが、コルクアートが展示されているギャラリーはありません。だから、うまく成立するかもしれないと思ったんです」。
そうして、コルクアートのギャラリーでありワインバーでもある『Atelier Cork & Tip』をオープンしたのが2021年7月のことだ。
肖像画1枚で使うコルクは約2,000個!
なんともいえないあたたかみを感じるワインの色を吸ったコルクは、年数やブドウの種類でその濃淡が全く異なる。久保さんはこの自然についたワインの色を重視し、彩色はせずそのままのコルクを使っている。
「ワイン好きの知人や同業の仲間に声をかけてコルクを集めています。濃いワインが好きな人や専門店からは濃いコルクが集まるし、カジュアルな飲みやすいワインが多い店からは淡い色のものが来るんですよ」と久保さん。
集めたコルクは色の濃淡で分類。設計図となるドットの下絵をつくり、それをコルクに置き換えて、積み木のように下から重ねていく。肖像画1枚に使うコルクの数は2,000個以上。ワイン1本1本が、こうして1枚の作品を構成するドットのひとつになっていると思うと感慨深い。
「ワイン好きの知人や同業の仲間に声をかけてコルクを集めています。濃いワインが好きな人や専門店からは濃いコルクが集まるし、カジュアルな飲みやすいワインが多い店からは淡い色のものが来るんですよ」と久保さん。
集めたコルクは色の濃淡で分類。設計図となるドットの下絵をつくり、それをコルクに置き換えて、積み木のように下から重ねていく。肖像画1枚に使うコルクの数は2,000個以上。ワイン1本1本が、こうして1枚の作品を構成するドットのひとつになっていると思うと感慨深い。
2025年9月の取材時までに120枚を超える作品を仕上げてきたというが、最初に描いたのはナポレオンだった。フランスワイン専門店に勤めていたこともあり、歴史上の偉人にまつわるワインやラベルについて調べるうち興味が湧いたことがきっかけだったという。「ワインの勉強は、生産地の土地や歴史の勉強と紐づいていると思ったんです。ワインを通じて、世界史をもう一度学び直すような感覚ですね。人物をモチーフにすることで、その人の人生や時代背景も知ることができて、出身地を訪れたりその国の料理を食べたりすることの楽しみも増すんです」。
ワイン文化にも長い歴史があり、ワイン自体もまた歴史を刻むもの。そのコルクによって歴史を知る入り口となる作品がつくられていると考えると、底知れないロマンがある。
ワイン文化にも長い歴史があり、ワイン自体もまた歴史を刻むもの。そのコルクによって歴史を知る入り口となる作品がつくられていると考えると、底知れないロマンがある。
ワインを軸に、出会いとつながりを生む場所へ
コルクを集めるにあたり、SNSでつながって声をかけたり相談したりすることも多いという。コルクをもらい、できあがった作品を投稿して、みてもらうことで、ワインが好きな人たちとのつながりが着々と広がっている。
先日、お子さんがオーストラリアに留学することが決まり、それを機に久保さんもオーストラリアのブドウ畑やワイナリーへ足を運ぶことを決意。オーストラリア出身の有名人をコルクアートで描いてポストカードにしたものを、名刺代わりに持って行ったのだとか。「コルクアートの写真を見せると相手も喜んでくれて、それでコミュニケーションが生まれるんです」。
先日、お子さんがオーストラリアに留学することが決まり、それを機に久保さんもオーストラリアのブドウ畑やワイナリーへ足を運ぶことを決意。オーストラリア出身の有名人をコルクアートで描いてポストカードにしたものを、名刺代わりに持って行ったのだとか。「コルクアートの写真を見せると相手も喜んでくれて、それでコミュニケーションが生まれるんです」。
ここで味わえるワインのラインナップは「ちょっとマニアックかもしれません」と久保さんは言うが、それは「知らなかったことを知るよろこび」を大切にしているから。「実際に口にしてみないとわからないおいしさってたくさんありますよね。ネットで調べたらすぐ出てくる有名なものよりも、知らないものを飲んでみたらおいしかったという体験をしてほしいんです」。
また、コルクアートをラベルにあしらったオリジナルワインも店頭に並ぶ。久保さんが各国(フランス、イタリア、ニュージーランド、ルーマニア、オーストリア)のワイナリーに直接掛け合ってつくった、日本ではここでしか飲めないワインだ。
今後は、工場跡地や廃墟など一度役割を終えた場所をつかったギャラリーなども考えているという。本来は捨てられるはずだったコルクでも、工夫と捉え方次第で可能性は無限大だ。
好奇心が育ち、出会いが生まれ、輪が広がる。『Atelier Cork & Tip』は、コルクで人や文化をつなぐ新しい“橋場”だった。
好奇心が育ち、出会いが生まれ、輪が広がる。『Atelier Cork & Tip』は、コルクで人や文化をつなぐ新しい“橋場”だった。
Atelier Cork & Tip 基本情報
住所:台東区橋場1-36-2
アクセス:私鉄・地下鉄浅草駅から徒歩約20分
TEL:なし
営業時間:14:00〜22:00 LO
定休日:火
公式SNS:https://www.instagram.com/atelier_cork_tip/
Google Mapの読み込みが1日の上限回数を超えた場合、正しく表示されない場合がございますので、ご了承ください
ライター/中村こより

1993年東京生まれ、北海道育ち。坂のある街に憧れて2020年から谷中在住。
街を歩いたりお店の話を聞いたりする記事をよく書いています。
好きなものは凸凹地形、地図、路上観察、夕立。